阪神タイガースの優勝(アレ)をデータから紐解く

阪神タイガースが18年ぶりにセ・リーグ優勝(以下アレとする)した。

データに関するブログなので、今回は阪神のアレをデータから考えてみたい。

プロ野球を観ていた方なら、今年の阪神はとにかく投手力が充実していたという話を何度も聞いたはずだ。
一方で、攻撃力はそれほどでもなく、そのわりに得点はまあまあ多かった、という話も聞いただろう。

ここでアレ決定日時点でのセ・リーグの勝敗、得失点および攻撃・守備のスタッツを引用する。スタッツ項目はスポーツナビに準ずる。

これを見ると確かに失点はリーグ最少で高い投手力が裏付けられているのだが、それどころか得点もリーグ最多なのである。つまり攻撃力も高いのである(失点の少なさのほうが傑出はしている)

次に各種スタッツを見ると、攻撃力があまり高くないという風評にもある意味根拠があることがわかる。
この表に掲載されている攻撃に関するスタッツは打率、本塁打数、盗塁数だが、打率は4位と僅差のリーグ3位で、本塁打数はなんと5位、盗塁数も2位である。打撃は普通で、長打力は低く、機動力も飛び抜けてよくはないように見える。

ではなぜ得点数がリーグ1位なのか?をこの表にないデータから考えてみた。

まず、阪神はどの選手も四球をよく選んでいた。この話は今年の阪神の特徴としてよく取り上げられていたので聞いたことがある方もいるかもしれない。その結果として阪神出塁率はリーグ1位である。本塁打を打たない限り得点するにはまず塁に出なければならないし、走者なしの状況なら単打でも四球でも同じくらいの価値があるといえる。この塁に出る能力が阪神は高かったのだ。

次に本塁打数は選手の力量だけでなく本拠地に左右される。球場の広さがまちまちだからだ。大まかにいって、セ・リーグでは神宮、東京ドーム、横浜スタジアムマツダスタジアム、甲子園、バンテリンドームの順で本塁打が出やすいとされる。つまり、阪神本塁打数の少なさは甲子園の影響を受けていると考えられる。実際、(部分的には本拠地が狭いことにより)本塁打数が多い巨人やヤクルトとの直接対決での本塁打数を見ると、いずれの球団よりも阪神のほうが本塁打を打っているのだ。

機動力は盗塁数リーグ1位の広島に劣っていたのだろうか。実は盗塁の失敗数や成功率では阪神のほうが優れていた。盗塁は成功だけでなく失敗も試合結果に影響するので、総合的には阪神のほうが機動力が高いといえる。さらにいうと盗塁が上手いことは走塁が上手いことにもつながる。今年の阪神の得点パターンとして、ランナー2塁から単打で1点入ることが多いと言われていた。

要するに、今年の阪神は塁に出る能力も機動力もリーグトップだし長打力も決して低くなかったと考えられる。
こういった結果にもかかわらず攻撃力が低いような印象を受けていたのは、引用元のスポーツナビをはじめ各種メディアが取り上げる攻撃スタッツが基本的に打率、本塁打数、盗塁数だということが大きいと思われる。

野球のルールを知っていれば、ヒットだけでなく四球にも価値があること、球場が狭ければ本塁打が出やすいこと、盗塁を失敗すればチームにとってマイナスであることは誰でもわかるが、目立つ指標に引きずられてしまうのだろう。
個人のタイトルでも、最高打率は首位打者と呼ばれるだけあって最高峰の位置づけである一方、最高出塁率はそんなタイトルが存在することを知らない人も多いと思われる。どの球場で打とうと1番本塁打が多い選手が本塁打王になるし、盗塁王というタイトルはあっても最高盗塁成功率というタイトルはない。

ちなみに守備はどうかというと、消化試合数を補正すれば防御率と失点の順位が一致する。防御率自責点(ざっくりいうと失策絡みでない失点)を9イニングで割ったものなので、よほど失策による失点が多くない限り一致するのは当たり前である。極端な話、防御率は失点を少し異なる形で表現しているだけともいえる。

最後に失策にも触れておく。阪神はリーグワースト2位の失策数だが、一概に守備が悪いともいえない。まず、守備も本拠地によって左右される。内野が土の甲子園は守備が難しいとされる。また、たとえば痛烈な打球に内野手が飛びつくが弾いてしまってエラーになったとき、その内野手の守備力は低いのだろうか。守備範囲が狭いと、グラブが打球に届くこともなく普通のヒットになったかもしれない。ベテランになり守備範囲が狭くなった結果として失策数が減ることがあるが、この場合守備力が向上したとは言いがたい。阪神の野手は他球団と比べ全体的に若く、失策数は多めでも守備力は高いかもしれない。

またそもそも失策とは何なのか?という話もある。先の例だと、場合によっては内野安打と判断されるかもしれず、失策と内野安打に明確な基準はない。失策だろうと内野安打だろうとアウト数やランナーといった試合のステータスに影響はないので、失策は状況に対する解釈の一種ともいえる。

まとめると、目立つ指標が必ずしもチームの強さと相関せず、地味な指標のほうがむしろ相関が高いという結果で、最近(データオタクでない)普通の野球ファンにも知られつつあるセイバーメトリクスを想起するような結果だ。プロスポーツは興行なので、目立つ指標は目立つ指標で大事だと筆者は考える。四球を含めた出塁する率が最も高い選手ももちろんすごいが、ヒットを打つ確率が最も高い選手が打者として抜きん出ているとするのは自然な考えだ。岡田監督もアレした後は、狙える個人タイトルは積極的に狙わせるらしい。そういった選手個人への配慮も含めた総合的なマネジメントがアレにつながったのだろう。