JRA海外競馬発売データを利用して日本馬の払戻率を定量的に分析する

JRAでは海外競馬発売が行われている。
原則としてJRAは自らが主催するレースの馬券を発売するのだが、日本馬が出走するレースに限って海外競馬の馬券を発売することがあるのだ。
当然、日本馬だけでなく全出走馬のうち好きな馬に賭けることができるのだが、馬券購入者の大半が日本人であることからオッズの歪みが生じる。

競馬は賭け事であるがスポーツの側面も持ち合わせている。日本の馬が海外のレースへ参戦するとなると、日本の馬を応援したくなるのが多くの日本人の心情であろう。この応援がオッズに表れてしまうのだ。すなわち、日本馬は過剰人気になり、その裏返しとして日本以外の馬は過小評価されることになる。

過剰人気は魅力的な見た目やドラマチックな臨戦過程などいろいろな理由で起きるものだが、JRA発売の海外競馬における日本馬の過剰人気は理由が明快で納得感があるので、競馬愛好家の間ではよく知られており、たとえば以下の記事にもそのような趣旨の指摘がある。
baken-no-kaikata.com

それでは、日本馬はどれだけ過剰人気しているのか?日本以外の馬はどれだけ過小評価されているのか?極端な話、日本以外の馬を買い続ければ長期的にプラスになるのか?JRAが公開しているデータを利用して海外競馬におけるオッズの歪みを定量的に検証した。

使用したデータ

JRA公式ページから2016年以降に馬券を発売した海外競馬のデータが入手できる。
ここから2021年のクイーンエリザベスⅡ世カップまでのデータをクローリングした。
jra.jp

分析の方針

上記の各レースで1番人気から3番人気の馬について、日本馬とそれ以外の馬に分けて単勝払戻率を算出した。

さらに、対象レースを香港のレースとそれ以外のレースに分けた場合の払戻率も算出した。
香港は日本から地理的に近く、賞金も高いことから日本馬の出走が盛んなのだが、近年日本馬の勝率が高いことで知られる。
勝率が高いということは、過剰人気になりにくい(実際に能力が抜きん出ているので、人気が過剰になりようがない)のではないかという仮説を立てて、このような分析を実施した。

分析の結果

まず、全レースの集計結果である。以下では1点の購入金額を100円とする。
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全体の払い戻し率はJRA単勝払戻率80%に近いが、日本とそれ以外でかなりの差がある。
とはいえ、日本以外に絞っても100%には程遠く、買えば儲かるほどではない(というか普通に買い続ければ損をするであろう)

次に、香港のレースに絞った場合を見てみる。
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日本馬の払戻率は先ほどよりましになっている。それでも、日本以外の払戻率のほうがなおよい。
過剰人気は抑制されているものの、完全になくなってはいないといったところか。

最後に、香港以外のレースだとどうだろうか。
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なんと日本馬の払戻率は50%を下回ってしまった。
勝率は日本馬の20%に対してそれ以外が22%と大きな違いがないのに、払戻率に2倍近くの差があることから、いかにオッズが歪んでいるかが見てとれる。
それだけ、海外のレースでは期待を背負っているということだろうか。

まとめ

分析の要点をまとめると

  • 2016年以降のレース結果を見る限り、海外競馬での日本馬の払戻率は悪い
  • その裏返しとして日本以外の馬の払戻率は相対的によくなっているが、100%を超えるほどではない
  • 香港では日本馬とそれ以外の払戻率の差は比較的小さいが、それでも日本馬のほうが悪い
  • 香港以外の海外レースに絞ると日本馬の払戻率は非常に悪い

となろうか。

あくまで、2016-2021年のデータでこのような傾向が出ているだけなので、今後馬券購入者に態度変容が起こればオッズの歪みがなくなることも考えられる。

最後に、本日の凱旋門賞ではオッズの歪みをなくすような活躍を日本馬に期待したい。