元データサイエンティスト採用担当者が未経験からデータサイエンティストになる方法について考える

自分程度の実力・実績のわりに私この業界わかってますよ感が出る気がして、この手の記事を書くつもりはなかったのだが、学生時代の同級生から未経験からデータサイエンティストになるにはどうすればいいのかと聞かれたので、この機会に自らの経験と考えの棚卸しを兼ねて文章にしてみようと思う。そして少しでも同級生の参考になれば。

筆者は何者か

会社員であり、職種はデータサイエンティストである。おおまかな経歴を組織の仮名とともに記す。

  • A大学(文学部・大学院文学研究科、在籍8年)
  • B社(ITコンサルティング、在籍約2年半)
  • C社(広告、在籍約5年)
  • D社(広告、在籍約1年半)
  • E社(SI、在籍数ヶ月、現職)

B社ではITコンサルタントとして働いており、C社からデータサイエンティストのキャリアを開始した。
またC社とD社ではデータ分析チームのマネージャーをやっていて、データサイエンティストの採用業務にも従事した。
したがって採用する側とされる側の両方を経験しており、とくにB社からC社への転職は今回のテーマの「未経験からのデータサイエンティスト転職」に当てはまる。

中途採用とは何か?未経験とは何か?

同級生はすでに社会人をやっており、今回の「未経験からデータサイエンティスト」には中途採用という前提がある。
経験者採用がほぼ同じ意味で使われることからわかるように、中途採用では当該業務の経験者を採用することが通例である。
データサイエンティストの場合、データ分析業務の経験があれば経験者として扱われるわけだが、データ分析業務を必要なスキル・知識・経験から分解すると大きく3つになる。

  • 数学・統計・機械学習系スキル
  • プログラミング・ITスキル
  • 業界知識・経験

業界知識・経験はデータサイエンティストであっても所属組織によってまちまちなので強く求められることはない。したがって残りの2つのスキルに関わる業務経験があれば経験者だし、なければ未経験だ。

未経験からデータサイエンティストになった事例を考える

自己紹介に書いたように筆者は未経験からデータサイエンティストになった。
なぜなれたかというと、採用する側が「未経験の人を採用してもいい」と判断したからである。でなければ採用されることはない。
未経験を採用する理由として、採用目標数が多い、下手な経験者を採用するより長期的に戦力になる、入ってから社内で育成できる、などが考えられる。
ひと言で表すなら「余裕がある組織」にでもなろうか。最終的には会社の方針によるので、可能性のありそうな会社を研究していくことになるだろう。

別の理由としてB社でシステム開発をしていたことが考えられる。
システム開発をしていればプログラミング・ITスキルを持っていることになる。いわば「半経験者」になるわけだ。
筆者以外で未経験からデータサイエンティストになった人を見てもプログラミング・ITスキルを持っていた人が多い。

これは採用する側に回ったときの感覚として理解できる。
プログラミングはいま労働市場にいる人の小中高時代には教えられていないので、本当に一度もやったことのない人が大多数である。ちょっとしたプログラムを組むくらいならさほどハードルが高くないものの、ある程度の体系的な学習が必要で向き不向きもある。そしてデータ分析においてプログラミングはあくまで手段なので、プログラミング自体に強い興味を持っているデータサイエンティストないしその志望者は少ない。
したがって、プログラミングのバックグラウンドが見えない人を採用するとプログラミングへの適性がなく業務を進められないリスクがある。
逆にプログラミングができれば、昨今の分析の多くはライブラリの組み合わせで実装できるので上司や先輩の指示のもとに手を動かして作業をしてもらえるし、会社の都合で分析と関係の薄い開発業務へコンバートもできるので採用に踏み切りやすい。

たとえば情報系専攻でもないしシステム開発の経験もないが社会人大学院の修論でRを使って分析に必要なくらいのプログラムは普通に書けるとする。コーディング試験が実施されないかぎり、会社の採用担当者は本当にプログラムを書けるとこれだけでは確証を持てないが、修論で使ったプログラムをGitHubなどにアップロードして職務経歴書にリンクを貼っておけばちゃんとした証拠になるだろう。

あとはデータサイエンティストが働いているスタートアップの事務職としてとりあえず入ってから異動した知り合いもいる。
未経験の人が最初からデータサイエンティストとしてスタートアップへ入ることは大企業より難しいと思われる。採用数が少なく、即戦力が必要で、育成する余裕がないからだ。
一方で少人数ゆえにデータサイエンティストと社内で関係を構築しやすく、人の出入りが激しいゆえに突発的に人手が必要になることも多く、部署横断的な働き方も求められることから、入ってからの異動はスタートアップのほうがやりやすいかもしれない。

その他、考えられる戦略

現職に関連する事業の会社なら、業界知識・経験を持った経験者としてアピールできる。業界知識・経験は強く求められないと書いたが、当然持っているに越したことはない。データ分析のスキルはあとから身につけてもらうからやる気さえあればよく、それよりも業界のことをよくわかっていて関心を持っている人が欲しいと考える会社もあるだろう。

また、「アナリスト」などといった名前で募集がかかっているような、BIツールやExcelで完結するくらいの分析までしかやらない分、営業的な仕事を兼任する職種もある。こういった職種のほうが求められる統計などの水準は低く、未経験でも採用されやすい傾向にある。場合によってはプログラミングは不要かもしれない。もちろん、その分ほかのスキルや経験は求められるだろう。

あとはあの手この手で実務経験がなくても大丈夫だとアピールするしかない。考えられる手段については以前に書いた。個人的にはここに書いたなかならどれも一定の評価はされるべきだと思うが、たとえばKaggleひとつをとってもコンペに参加しているだけでやる気があると思う人もいればMasterやGrandmasterでも意味ないと言い放つ人もいるので、可能な範囲で手を広げておけたほうがどこかしらで目に留まる確率は高まるだろう。
nora-ds.hatenadiary.jp


年々未経験お断りになっている説への私見とまとめ

2023年現在ではデータサイエンティストの数が増えて転職市場にあふれ返っているから未経験者は無理という話もある。
私は2016年にC社に入ったが、システム開発の経験があったほかにアピールできるものは何ひとつ準備していなかった。いまにして思えばよく採用されたと思う。
一応、大学院で統計やらRをやった話を職務経歴書に入れたが、面接をしていた上司と入社後に話した感じだと何のアピールにもなっていなかった(これは大学院に意味がないというよりは私が学んだ内容と書き方が悪かったという話)

さすがにここまで丸腰だといまなら採用されないだろうが、一方で未経験の人がスキルを身につける環境は年々充実している。
また自分が観測した範囲だけも、この1、2年で未経験からデータサイエンティストになった人は普通にいる。
以前よりなりやすいとはいえないと思うが、ちょっと前ならなれたけどいまは無理、みたいな0か1の話ではないと思う。会社単位ではそういうところもあるかもしれないが。

なお、未経験からデータサイエンティストになれるとしても相当な苦労があるのではないかと思われるかもしれないが、筆者の個人的体験ではぜんぜんそう感じなかった。なぜなら新卒の就活のほうがはるかに大変だったからだ。
自己紹介に書いたように、筆者は人文系の院卒であるうえ、学部と院あわせて8年も在籍した。新卒としては相当歳を食っているうえ、専攻も労働市場で一切評価されない。体育会所属でもないし、ほかにアピールできる材料もない。あえていうなら英語がちょっとできるくらい。
ついでに学者になるつもりでいたところを急に就職することに決めたので、就活を開始したのが2月の途中である。エントリーさえ間に合わなかった企業がざらにあった。
学部で就職していった同級生を見た感じ履歴書で落とされた例をほぼ見たことがなかったが、筆者のような経歴の人間には当てはまらず、40社以上応募して書類が通ったのは10社程度だった。
学部に入学した当時にこんな事態は想像だにしていなかったわけで、人生簡単だと思っていたことが難しかったり、難しいと思っていたことが簡単だったりするので、やってみるまでわからないことも多いのでは、と思う。